「ヘッドレスCMSは本当に勝ったのか」
WordPressがまだWebの43%を支えている現実

技術ブログやカンファレンスではmicroCMSやContentfulの話題で持ちきり。一方、世界のWebサイトの43%は今もWordPressで動いています。ヘッドレスCMSとは何か、何ができて、何ができないのか。熱狂と現実の温度差を、現場の視点から整理してみます。

「ヘッドレスCMS、最高ですよ」と言われた帰り道

数年前、ある勉強会の懇親会で若いフロントエンドエンジニアにこう言われたことがあります。「もうWordPressの時代じゃないですよ、ヘッドレスCMSが最高なんで」。彼の話は熱く、Next.jsとmicroCMSで作ったポートフォリオの話、ビルド時間の話、Vercelのプレビュー機能の話、本当に楽しそうでした。

その帰り道、私はその日の昼間に納品したWordPress案件のことを思い出していました。中小企業のコーポレートサイト、月数件の更新作業はクライアントの広報担当が自分でやる、予算は限られている、サーバーは既存のレンタルサーバーを使い回す。あの案件にヘッドレスCMSは、たぶん合わない。

でも、技術ブログを開けばヘッドレスCMSの記事ばかり。Twitter(現X)でも「WordPressはもう古い」「ヘッドレス一択」みたいな声をよく見る。一方で、W3Techsの最新データを見ると、2025年時点でも全Webサイトの約43.5%がWordPress、CMS市場の中では約60%以上を占めています。シェアは下がるどころか、ここ数年ほぼ横ばいです。

技術界隈が熱狂しているものと、世の中で実際に使われているものは、しばしば違う。

この乖離は何なのか。ヘッドレスCMSは「勝った」のか、それとも「特定の用途で強い」だけなのか。私自身もまだ整理しきれていなかったので、改めて考えてみました。

そもそもヘッドレスCMSとは何か

ヘッドレスCMS(Headless CMS)の「ヘッド」とは、Webサイトの表示部分、つまりフロントエンド(見た目)のことです。普通のCMSは「コンテンツを管理する裏側」と「コンテンツを表示するテンプレート」が一体になっている。WordPressがまさにそうで、管理画面で記事を書けば、PHPテンプレートを通してHTMLが生成され、ブラウザに表示される。

ヘッドレスCMSは、この「ヘッド」、つまり表示部分を切り離した設計です。CMSは管理画面とコンテンツの保管庫だけを提供して、表示はAPIで取得して、フロントエンド側で好きに作ってください、というスタンス。

// 典型的なヘッドレスCMSの使い方(microCMSの例)
// Next.jsからmicroCMSのAPIを叩いて記事を取得
const res = await fetch(
  'https://your-service.microcms.io/api/v1/blog',
  { headers: { 'X-MICROCMS-API-KEY': apiKey } }
);
const data = await res.json();

// あとは好きなフレームワークでレンダリング
// Next.js / Nuxt / Astro / SvelteKit / React Native ...

コンテンツがJSONで返ってくるので、表示先はWebサイトでもいいし、iOSアプリでもいいし、デジタルサイネージでもいい。同じコンテンツソースから複数の出力先に配信できる、いわゆる「マルチチャネル配信」が大きな売り文句です。

代表的なサービスとしては、海外ではContentful(2013年〜、ベルリン発)、Strapi(オープンソース、Node.js)、Sanity、Storyblok、Prismicあたり。国内ではmicroCMS(2019年〜、日本製、日本語UI)がここ数年で一気にシェアを伸ばしています。ニュースサイトのCMSとして使われたり、企業の採用サイトの裏側に入っていたり、最近よく見かけるようになりました。

📌 豆知識
「ヘッドレス」という言葉自体は、もともとはECサイト業界で「ヘッドレスコマース」として使われ始めた概念です。ShopifyやBigCommerceが管理画面と購買フローを分離する設計を提案したのが先で、CMS業界が後追いした流れ。

WordPressと何が違うのか

違いはアーキテクチャだけではありません。「誰が、何のために使うか」が根本的に違います。WordPressは20年以上、「Web担当者がブラウザ一つで記事を更新できる」 という思想で進化してきました。テーマを選び、プラグインを入れ、ビジュアルエディタで原稿を書いて公開。コードを書かない人でも完結する設計です。

ヘッドレスCMSは違います。基本的に 「エンジニアがフロントエンドを実装する」 ことが前提です。デザインも、レイアウトも、ルーティングも、SEOメタタグも、全部コード側で組む。CMS側は「決められたスキーマに沿ってデータを入れる箱」に徹します。

WordPress
統合型・オールインワン

管理画面・テンプレート・データベース・公開機能がすべて1つのPHPアプリ。テーマやプラグインを入れれば、コードを書かずにサイト構築できる。レンタルサーバーで動く。学習リソースが膨大。

ヘッドレスCMS
分離型・API駆動

CMSはコンテンツ保管とAPI提供のみ。表示部分はNext.jsやNuxtなどで別途実装。Vercel/NetlifyなどのホスティングとCMSサービスを組み合わせる。フロントエンドエンジニアの仕事が増える。

この違いはコストにも直結します。WordPressは月額1000円のレンタルサーバーで動かせます。ヘッドレスCMSの場合、CMS本体の月額料金(microCMSなら個人は無料〜、業務用は数千円〜数万円)、ホスティング費用(Vercelの有料プランなど)、そして何よりフロントエンドを実装するエンジニアの人件費が必要です。小規模サイトでこの構成を選ぶと、ランニングコストも初期コストもWordPressより高くつくケースが多い。

ヘッドレスCMSは「コンテンツ更新の手間を減らす」道具ではない。「自由を買う代わりに、責任を引き受ける」道具だ。

逆にヘッドレスCMSの強みもはっきりしています。フロントエンドが完全に自由なので、表示パフォーマンスを最適化しやすい。静的サイト生成(SSG)と組み合わせれば、配信は超高速。WordPressのテーマ・プラグイン地獄からも解放される。脆弱性のあるプラグインを更新し忘れて改ざんされる、みたいなリスクが激減します。スマホアプリやデジタルサイネージなど、Web以外の配信先にも同じコンテンツを使い回せる。

技術界隈の熱狂と、現場の温度差

技術系のブログやカンファレンスでヘッドレスCMSが熱く語られる理由は、わかります。フロントエンドエンジニアにとって、ヘッドレスCMSは 「自分の得意なJavaScriptフレームワークの世界に、コンテンツ管理機能を引き込める」 道具なのです。PHPやWordPressテーマの作法から離れて、慣れたReactやVueでサイトを組める。これは技術者にとって純粋に楽しいし、生産性も上がる。

一方で、Web制作の現場全体を見ると、温度は明らかに違います。中小企業のコーポレートサイト、地域の飲食店、士業の事務所、塾、クリニック。日本中にある何百万もの「普通のサイト」は、今もWordPressで作られ、これからも作られ続けるでしょう。理由は単純で、クライアントが求めているのが「コンテンツ更新の手間を減らすこと」だからです。

3年前にやった案件を思い出します。地方の老舗旅館のサイトリニューアル。先方の更新担当はパートの女性で、ITに詳しいわけではない。月に数回、季節のお知らせやイベント情報を更新する。あの案件にもしヘッドレスCMSを提案していたら、運用は確実に破綻していました。「リッチエディタで画像を貼って、プレビューを見て、公開ボタンを押す」というWordPressの当たり前が、現場では何より価値がある。

💡 視点
ヘッドレスCMSの管理画面は、確かにモダンで美しい。でも「美しい管理画面」と「ITが苦手な人でも迷わず使える管理画面」は、必ずしも同じではない。WordPressの古臭く見える管理画面には、20年かけて積み上げられた「初心者でも詰まらないUI」のノウハウが詰まっています。

そしてもう一つ。ヘッドレスCMSの構成は 「動くものを作ったあとの保守」が難しい 問題があります。WordPressなら、納品後にクライアントが別の制作会社に乗り換えても、WordPressを触れる人は世界中にいる。ヘッドレスCMS+Next.js構成は、引き継ぎ先がぐっと狭まります。「フロントエンドエンジニアが必要、しかもNext.jsとTypeScriptとmicroCMSのスキーマを理解している人」となると、地方の小規模制作会社では人材が確保できないこともある。

ブロガーに向いているのか、という問い

個人ブログを始めたい人にヘッドレスCMSは向いているのか。これは正直、人によります。

「Web制作の勉強を兼ねて、最新の技術スタックでブログを作りたいエンジニア」には、間違いなく向いています。Next.js + microCMS + Vercel という構成は、ポートフォリオとしても強い。学習効果も高い。表示も速い。技術ブログの文脈でヘッドレスCMS推しが多いのは、書き手の多くがこの層だからです。

一方で、「とにかく文章を書いて発信したい、技術はあまり詳しくない」というブロガーには、まったく向きません。記事を1つ公開するために、Markdownを書いて、Gitにpushして、ビルドを待って、デプロイを確認して、という流れに耐えられる人は少数派です。ヘッドレスCMSの管理画面から記事を書く構成にしたとしても、画像の最適化、リンク切れチェック、目次の自動生成、関連記事表示など、WordPressなら標準やプラグインで一発の機能を、すべてフロントエンド側で実装する必要があります。

そういう人には、WordPressか、もっと言えばnote、はてなブログ、Substackのようなブログサービスが圧倒的に向いている。「書くこと」に集中したい人にとって、技術スタックは見えない方がいいのです。

道具は、それを使う人の目的によって最適解が変わる。技術の新しさは、選定理由の一つでしかない。

余談ですが、私自身は技術記事を書くサイトをいくつか運営していて、用途によってWordPressと自作のNext.js構成を使い分けています。クライアント案件ではほぼWordPress、自分の遊び場ではNext.js+ヘッドレスCMSやMarkdownベース。同じ「Webサイトを作る」でも、最適な選択は文脈次第なのだとつくづく思います。

「勝ち負け」ではなく、棲み分けの時代へ

ヘッドレスCMSの市場は確実に伸びています。各種調査では、ヘッドレスCMS市場は年率20〜25%で成長しているとされています。大手メディア、ECサイト、大規模なコーポレートサイトを中心に、採用例は着実に増えている。日経電子版、Spotifyのコンテンツ配信、楽天など、エンタープライズ領域での導入事例は山のようにあります。

一方で、WordPressのシェアは40%台前半で安定しています。むしろ、WordPress自身がREST APIを公開し、GutenbergエディタでReactを採用し、「ヘッドレスWordPress」という選択肢まで提供している。WordPressをヘッドレスCMSとして使うという、ちょっと変わった構成も普通に存在するようになりました。

つまり、構図は「ヘッドレスCMSがWordPressを駆逐する」ではなく、「用途ごとに最適なCMSを選ぶ時代」に進んでいるのだと思います。

向いている案件
ヘッドレスCMSが活きる場面

大規模メディア、複数チャネル配信、表示パフォーマンスが事業KPIに直結するEC、開発チームに専任エンジニアがいる、デザインの自由度を最優先にしたいブランドサイト。

向いている案件
WordPressが今も最適な場面

中小規模コーポレートサイト、運用コストを抑えたい案件、クライアントが自力で更新したい、引き継ぎが想定される、ブログ機能やお問い合わせフォームを手早く実装したい。

技術選定で大事なのは、「いま流行っているから」ではなく、「このプロジェクトと、このチームと、このクライアントに何が合うか」を冷静に見極めることです。ヘッドレスCMSは強力な道具で、確実に未来の選択肢の一つ。でも、すべてのプロジェクトに必要なわけではない。

次にCMS選定で迷ったとき、技術的なかっこよさではなく、運用する人の顔を思い浮かべてみてください。3年後、その人がストレスなく記事を更新できているか。引き継ぎが発生したとき、次の担当者が困らないか。技術の新しさが、運用の幸福を保証するわけではないのです。

まとめ

  • ヘッドレスCMSは、コンテンツ管理機能と表示機能を分離し、APIでコンテンツを配信する設計のCMS。Contentful、microCMS、Strapi、Sanityなどが代表的。
  • WordPressは管理画面・テンプレート・データベースが統合されたオールインワン型で、コードを書かない人でもサイト運用ができる思想で作られている。
  • 2025年時点でもWordPressは全Webサイトの約43.5%、CMS市場の60%以上を占めており、シェアは横ばいで推移している。
  • ヘッドレスCMSは大規模メディアやマルチチャネル配信に強い一方、運用人材の確保や初期コストの面で中小案件には不向きなことが多い。
  • 個人ブロガーがヘッドレスCMSを使うのは、技術学習目的でなければハードルが高い。書くことに集中したい人にはWordPressやnoteのほうが合う。
  • 技術選定は流行ではなく、運用者・チーム・予算・引き継ぎ可能性を含めた現実的な視点で行うべき、棲み分けの時代に入っている。